【後編】「窓を開ける日」と「閉じる日」。これからの通風と家づくりの現実解
こんにちは。
福岡のビオハウジング、健康オタクの住宅設計士、竹森哲也です。
前編では、
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日本全体で「四季が二季化」してきていること
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北九州では「窓を気持ちよく開けられる期間」が意外と短いこと
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黄砂やPM2.5で「外の空気=いつもきれい」とは言えなくなってきたこと
をお話ししました。
後編ではいよいよ、実際の通風の考え方と家づくりについてです。
「窓を開ければ省エネになるはず」
「エアコンを使わずに工夫したい」
そんな想いと、今の気候・環境をどう折り合いをつけていくのか。
いっしょにイメージしてみましょう。
4. 「窓を開ければ省エネ」は、いまや“条件付きの正解”
昔の夏は、
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外気温:25℃前後
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湿度:そこまで高くない
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扇風機+通風で、なんとかしのげる
という日も多く、「窓=タダで涼しい」が成り立っていました。
ところが今の北九州の夏は、
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日中 32〜35℃
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湿度 60〜70%
という、“サウナの扉を開けたとき”のような空気の日が増えています。
その中で、室内を
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温度:26℃
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湿度:50%
くらいにエアコンで整えた状態で窓を開けてしまうと、
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高温多湿の空気が一気に流れ込み
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エアコンは
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温度をまた下げ
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余分な水分を大量に取り除き直す
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という重たい仕事をやり直すことになります。
結果として、窓を開けたほうが電気代が増える
という、ちょっと残念な現象が起こるわけです。
冬も同じで、
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室内20℃、外気5〜10℃のときに長時間窓を開ける →
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冷えた空気を20℃まで暖め直すために、余分な暖房エネルギーがかかります。
5. 「窓を開ける日」と「窓を閉じる日」の目安
そこで大事になってくるのが、
「窓の日」と「窓を閉じる日」を分ける」
という考え方です。
窓を開けて良い日(積極的に楽しみたい日)
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外気温:18〜25℃くらい
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湿度:60%以下
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黄砂・PM2.5の注意報が出ていない日
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朝晩の、外気のほうが気持ちいい時間帯
こういう日は、思い切り窓を開けて、
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家じゅうの風の通り道を感じる
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匂いや音、光の変化を楽しむ
「季節のごちそうタイム」にしていいと思います。
窓を閉じたほうがいい日
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外が30℃以上、または10℃未満
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湿度がかなり高く、ジメジメしている
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黄砂・PM2.5の注意喚起が出ている
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幹線道路沿い・工業地帯などで排気ガスが気になる時間帯
こういう日は、がまんして窓を開けるより、
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窓は閉める
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24時間換気+エアコンで、
「温度・湿度・空気質」を静かに整える
方が、身体にも家計にもやさしいケースが増えています。
6. ケース別イメージ:5月と9月で比べてみる
ケース①:5月中旬、最高25℃・湿度50%の日
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朝:外18〜20℃でカラッとしている
→ 窓全開+家じゅう通風が“正解” -
日中:25℃・日差しはあるが、風も気持ちいい
→ 日射遮蔽(カーテン・すだれなど)+窓で対応可能 -
夜:20℃前後
→ 少しだけ窓を開けつつ、防犯を考えて上部窓だけ空ける
このような日は、
窓をフル活用して、エアコンをほぼ使わない暮らし
が十分に現実的です。
ケース②:9月上旬、最高33℃・湿度70%の日
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朝:すでに26〜27℃で、少し動くと汗ばむ
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日中:33℃・湿度70%、外はモワッとした空気
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室内はエアコンで26℃・湿度50%にしている
ここで「風を入れよう」と窓を開けると、
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高温多湿の空気がなだれ込み
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エアコンが温度・湿度をゼロからやり直し
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結果的に電気代が大きく増える
可能性が高くなります。
この場合の現実解は、
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窓は基本閉める
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熱交換換気で空気を入れ替えつつ
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エアコンは「弱運転で長時間つけっぱなし」のほうが、
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室温・湿度が安定し
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実は電気代も抑えられる
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という少し“逆転した”選択になります。
7. 通風とセットで考えたい「家の性能」
窓の使い分けと同じくらい大切なのが、家そのものの性能です。
① 高断熱・高気密(UA値・C値)
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外が暑くても寒くても、**室内の温度がゆっくりしか変化しない殻(器)**をつくる
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春・秋の「良い外気」を、少し室内に“ためておける”
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夏・冬は窓を開けなくても、少ないエネルギーで快適をキープ
② 24時間換気(できれば熱交換+高性能フィルター)
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フィルターでホコリ・PM2.5をある程度カット
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熱交換で、夏の冷気・冬の暖気を無駄に捨てない
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→ 「窓を開けなくても、家の中の空気はちゃんと入れ替わっている」状態をつくる
③ “風の道”は「季節の演出」として設計
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南北・東西に抜ける窓の配置
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高低差のある窓で“煙突効果”
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庭や塀の位置で風を誘導する
こうした「風の設計」は、
春と秋の“窓の日”を最大限楽しむための仕掛けとして生かします。
温度調整を窓に任せきるのではなく、
「季節を味わう演出家」として窓を使う。
そんなイメージです。
8. ビオハウジングとしての結論
「自然を切る家」ではなく、「自然の変化から一歩守る器」
ビオハウジングでは、これからの北九州の家を、
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普段は
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窓を閉めていても、
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高断熱+高気密+全館空調+計画換気で
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温度・湿度・空気質が静かに整う器
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条件の良い日には
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窓をいっぱいに開けて
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風・光・木や土の匂いを楽しむ「季節のごちそうタイム」
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として考えています。
「自然を排除する家」ではなく、
“変わりつつある自然環境から、いのちと感覚を守るための器”としての家。
そのうえで、「窓を開ける心地よさ」は、
条件のそろった日にだけ楽しむ、“選び取る贅沢”
として、大切にしていけたらいいなと思っています。
前編はこちらhttps://biohousing.jp/spec_blog/28834/?preview=true

よくあるご質問(後編)
Q1. 窓を開ければ、本当に省エネになるのでしょうか?
A.
**「条件がそろえば、はい。でも、いつでもそうとは限りません。」**というのが正直なところです。
外気温が20〜25℃程度で、湿度も低い日には、
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窓を開けて通風する
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扇風機を上手に使う
ことでエアコンをあまり使わずに済み、省エネにつながります。
一方で、北九州の夏のように
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32〜35℃
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湿度60〜70%
といった高温多湿の日に窓を開けると、
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暑く湿った空気が室内に流れ込み
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エアコンが「温度を下げる+湿度を大きく下げ直す」仕事をやり直し
となり、かえって電気代が増える場合が多いです。
ですので、
「窓を開ければいつでも省エネ」ではなく、
「外の状態が良い日だけ、省エネになる」
と考えるのが現実的です。
Q2. 「窓を開ける日」と「窓を閉じる日」は、どうやって判断すればいいですか?
A.
ざっくりとした目安は、次のように考えてもらうと分かりやすいです。
窓を開けるのに向いている日(=窓の日)
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外気温:18〜25℃くらい
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湿度:60%以下で、空気が軽く感じる
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黄砂やPM2.5の注意報が出ていない
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朝夕など、外のほうが室内より気持ちよく感じる時間帯
こういう条件がそろっている日は、積極的に窓を開けてOKです。
家じゅうの風の通り道を作って、季節の空気を楽しみましょう。
逆に、窓を閉じたほうがいい日
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外が30℃以上、または10℃未満
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湿度が高く、外に出るとムワッと感じる
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黄砂・PM2.5の注意喚起が出ている
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幹線道路沿いなど、排気ガスが気になる時間帯
こういう日は、無理に窓を開けるより、
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窓は閉める
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24時間換気+エアコンで室内環境を整える
方が、健康面・省エネ面ともにメリットが大きいと考えています。
Q3. 高断熱・高気密の家でも、窓からの風を楽しめますか?
A.
はい、十分に楽しめます。
「高断熱・高気密」と聞くと、
「窓を開けたらダメな家なのかな?」
と心配される方もいますが、そんなことはありません。
高断熱・高気密の家は、
「窓を開けても閉めても、快適さを保ちやすい家」
と考えていただくとイメージしやすいです。
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普段:
→ 窓を閉めていても、断熱性能と全館空調・換気で温度・湿度・空気質が安定する -
春や秋の条件の良い日:
→ 窓を開けて、風の通り道・匂い・音など「季節の気配」をしっかり味わえる
窓の位置や高さ、庭や塀の配置などを工夫すれば、
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「風が抜ける気持ちよさ」
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「家の中と外がつながる感覚」
を楽しめるように設計することが可能です。
Q4. ビオハウジングの家づくりでは、通風をどう位置づけていますか?
A.
ビオハウジングでは、**通風を「温度調整の主役」ではなく、「季節を楽しむ演出家」**と考えています。
基本の考え方は、次の二本立てです。
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普段は「窓を閉めていても整う家」
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高断熱・高気密
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全館空調
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計画換気(フィルター+熱交換)
によって、
「窓を閉めていても、温度・湿度・空気質が静かに整っている器」
であることを大切にしています。
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条件の良い日は「窓を開けて季節のごちそうを味わう」
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気温・湿度・外気のコンディションが良い日だけ、窓を大きく開ける
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風・光・土や木の匂い、雨上がりの空気…
そういったものを、家族みんなで楽しむ時間にする
つまり、
「いつも窓を開けておく家」ではなく、
「変わってきた自然環境から、いのちと感覚を守るための器」
として家を考え、そのうえで**「窓を開ける心地よさ」を“選び取る贅沢”として味わう**、というスタンスです。