なぜ人間だけ、毛がなくなったのか ― 放熱する身体と、家という“毛皮” ―
🧬 なぜ人間だけ、毛がなくなったのか

― 放熱する身体と、家の“衣服”の話 ―
こんにちは、福岡のビオハウジング 健康オタクの住宅設計士、竹森哲也です。
私たち人間の身体には、他の哺乳類のような“毛皮”がありません。
しかし、それが当たり前だと思っているのは私たちだけ。
犬も馬も猿も、みんな立派な毛に守られています。
では――なぜ人間だけ、毛を失ったのでしょうか?
🐾 動物が毛を持つ理由
毛は、単なる装飾ではありません。
動物たちにとって毛は「生きるための家」です。
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毛は空気を含み、断熱材のように体温を保つ。
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風や外敵、紫外線から皮膚を守る。
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立毛筋の働きで、毛を立てたり寝かせたりしながら、
体温を精密に調整する。
つまり、毛は動く断熱システムであり、
動物たちは自分の体そのものを「家」にしているのです。
毛とは、動物にとっての“可動式の家”。
自然と一体化した生命の装置。
🌍 人間はなぜ、その毛を失ったのか
私たちの祖先がアフリカのサバンナに出ていったのは、
およそ数百万年前のこと。
灼熱の太陽の下、木陰もない広野を走り続けるには、
毛皮はあまりに暑すぎました。
そこで人類は、毛を捨て、汗を得るという大胆な進化を遂げたのです。
全身に張りめぐらせたエクリン汗腺が、
汗の気化熱で体を冷やす“天然クーラー”となりました。
これによって人間は、
毛に覆われた動物を「熱で追い詰める」狩りができるようになります。
いわゆる「マラソン狩猟」。
人間は速さではなく、放熱力で獲物を倒した動物。
🌊 もうひとつの仮説 ― 「海に潜った人類」説
一方で、「毛を失ったのは、海に潜ったからではないか」という説もあります。
いわゆる**アクア説(Aquatic Ape Hypothesis)**です。
この仮説では、人類が進化のある時期、
海や川辺で採集・潜水生活をしていたとされます。
毛を失ったのは、泳ぐときの抵抗を減らすため。
そして皮下脂肪を厚くしたのは、
水中でも体温を保つためだったというのです。
実際、イルカやアザラシなど水に適応した哺乳類は、
毛が少なく、皮下脂肪が発達しています。
人間も同じく、他の霊長類に比べて皮下脂肪が厚い。
この点を根拠に、「海での生活が毛をなくしたのでは?」と考えられています。
証拠はまだ限定的ですが、
この説が示したのは、
人間の身体が“熱と水”のバランスでできているという重要な視点です。
❄️ 毛を失った代償 ― 寒さに弱くなった
毛を失った代償は大きく、
人間は寒さに極端に弱い生き物になりました。
細長い手足は熱を逃がしやすく、
体毛のない皮膚は冷気に直接さらされる。
体を震わせて代謝熱を生み出す以外に、
寒さから身を守る術がなくなったのです。
そこで人類は、
衣服と火、そして家を生み出しました。
🏡 家は、人間の「もうひとつの毛皮」
断熱材は、体を包む衣。
暖房は、体内代謝を助ける火。
そして家全体が、外気から体温を守る“第二の皮膚”。
人間は毛を失った代わりに、
火と衣服、そして家をまとうようになった。
それは、文明という名の「人工の毛皮」だったのです。
🌿 醗酵する家は、“呼吸する毛皮”
ビオハウジングが目指すのは、
数値で密閉された箱ではなく、
木や土、微生物が息づく「呼吸する毛皮」。
自然の温度差や湿度のゆらぎを受け止めながら、
内と外の空気が穏やかに行き交う。
毛を失った人間が、
もう一度“自然と調和する皮膚”を取り戻すための家。
それが、醗酵する家の思想です。