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TOP社長ブログ【もやし屋での学び②-後編】麹は毒にも薬にもなる──微生物と室内環境、「発酵する家」の設計感覚

【もやし屋での学び②-後編】麹は毒にも薬にもなる──微生物と室内環境、「発酵する家」の設計感覚

こんにちは、福岡のビオハウジング。

健康オタクの住宅設計士、竹森哲也です。

生活環境での菌の働きとは?

もやし屋さんの話を聞いていて、

もう一つ強く印象に残ったことがあります。

それは、

麹はもともと「毒」にもなりうる存在であり、

それを人間が長い時間をかけて「毒ではない方向」に育ててきた、ということ。

最近は、自分で麹菌を培養してオリジナルの麹を作る人も増えています。

それ自体は素敵な試みですが、専門家によると、

突然変異や周囲のカビの混入によって、

安全だったはずの菌が別の性質を持ってしまう可能性もゼロではない
そうです。

コウジカビの仲間の中には、

強い毒素を出す種類も知られています。

いま私たちが使っている食用麹は、

そうした毒をつくらない性質の菌株だけを選び抜き、

長い年月をかけて「家畜化」されてきた存在だと言われます。

だからこそ、プロの種麹屋さんたちは、

  • どの菌を選ぶか

  • 他の菌を混入させない環境をどう守るか

に、ものすごく神経を使っています。

この話を聞いたとき、

「麹って、やっぱり“毒にも薬にもなる”ほど繊細なんだ」

と、身体の奥でストンと落ちました。


室内環境でも、微生物はいつでも“揺れている”

ここから先は、私が以前からうっすら感じていたことと、

今回の話がぴたりとつながった部分です。

ということは、家の中の環境においても、

微生物たちはいつでも

「人間にとってありがたい方向」にも

「負担になる方向」にも揺れうるのではないか?

という感覚です。

  • 同じ「麹菌」や「カビ」でも、

    ある環境では人を助け、

    別の環境ではアレルギーや不調の一因になるかもしれない。

  • その分かれ目をつくっているのが、

    空気・湿度・温度・換気、そして周りの建材・素材 なのではないか。

私はずっと、

「家の中の微生物は、

その環境や素材によって性格やふるまいが変わるのではないか」

と想像していました。

鹿児島で麹の話を聞きながら、

「あぁ、これはあながち空想だけでもなかったんだな」

と、静かに確信が深まっていきました。

  • 徹底的に除菌して、“何もいない空間”に近づけるのか

  • それとも、“いてほしい菌”が穏やかに働ける環境を整えるのか

家づくりの方向性も、ここで大きく違ってきます。


微生物が働きやすい環境は、人のからだにもやさしい

発芽や発酵の話から、自然と「家の空気」のことを考えてしまいます。

発酵食品の世界では、

  • カビや雑菌を完全にゼロにはできない

  • 「悪さをしやすい菌」を増やさないようにしながら、

    「働いてほしい菌」が伸び伸びと活躍できる場をつくる

という発想が当たり前です。

家の中も、本当は同じだと思っています。

家の中で大切にしたい「発酵的」な条件

  • 適度な湿度

    • カラカラに乾きすぎると、粘膜や肌が荒れやすく、免疫も下がりやすい。

    • ジメジメさせすぎると、カビやダニが増えます。

  • 穏やかな温度の変化

    • 部屋ごとの温度差が激しいと、体も自律神経も疲れやすい。

  • よどまない空気の流れ

    • 換気がうまくいかないと、匂いや湿気が溜まりやすい。

    • 強すぎる風ではなく、ゆるやかな循環が理想です。

  • 自然素材のちから

    • 木や紙、土などの素材は、

      微妙な湿気の吸放出や、温度の“あたり”を柔らかくしてくれます。

こうした条件は、

微生物にとっても、人のからだにとっても心地よい環境です。


「発酵する家」は、菌の繊細さを前提にした“いのちの器”

麹菌が“毒にも薬にもなる”ほど繊細な存在だとしたら、

家づくりもまた、

  • 菌を全部悪者扱いして、ひたすら排除するのではなく

  • いのちにとって良い方向に働いてくれるよう、静かに場を整える

という発想が必要だと感じます。

  • 極端に乾燥させすぎない

  • ジメジメさせすぎない

  • 化学物質でガチガチに固めすぎない

  • 木や土、紙など“呼吸する素材”もバランスよく使う

こうした積み重ねの中で、

微生物たちが暴れず、腐らず、

静かに“発酵側”に寄っていく環境

をつくることができるのではないか。

私はビオハウジングの家を、

「いのちと微生物の両方にとって、無理のない場」

「いのちの循環に場所を貸す器」

のようなものだと思っています。

鹿児島のもやし屋さんでうかがった、

麹の繊細さの話は、

このイメージをもう一段、くっきりと輪郭づけてくれました。


まとめ──微生物を“敵”にも“味方”にもできるのは、環境しだい

麹は、毒にも薬にもなりうる繊細ないのち。

家の中の微生物たちも、環境しだいで

人のからだを守る存在にも、負担になる存在にも変わっていきます。

  • 何もかも除菌してしまうのではなく

  • いのちが無理なく働ける「ちょうどいい環境」を整える

その発想が、発酵食品づくりと家づくりを、

静かに一本の線でつないでいるように思います。

次の回では、

河内菌本舗さんのような「いのちを扱う仕事」と、

ビオハウジングの家づくりや地域の循環経済を重ねながら、

“循環するビジネスと暮らし” の視点で書いてみたいと思います。

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