壊れるのに、残っていく。日本建築の発酵性と、福岡・北九州の工務店が考える家づくり
こんにちは、福岡のビオハウジング 健康オタクの住宅設計士 竹森哲也です。
北九州で自然素材の注文住宅をつくる工務店として、設計から現場まで一貫して見ています。
現場帰りの夕方。
木の匂いがまだやわらかく残る、組み上がったばかりの家の中に立つことがあります。
静かなんです。
まだ家具も人の気配もないのに、なぜか「ここはちゃんと息をしているな」と感じる瞬間があるんですよね。
そんなとき、ふと思うんです。
日本の建築って、もしかしたらとても“発酵的”なんじゃないか、と。
壊れないことが、価値だと思っていた

家づくりの世界にいると、どうしても「長持ちすること」「劣化しないこと」「壊れないこと」が価値の中心になりやすいです。
もちろん、それは大事です。
雨や地震から家族を守ること。
冬の冷えや夏の暑さから暮らしを守ること。
ここは、住宅の基本です。
でも一方で、こんな違和感もずっとありました。
「本当にいい家って、ただ長く残る箱のことなんだろうか」
「素材が傷まないことだけが、建築の正解なんだろうか」
便利で、均質で、メンテナンスフリー。
そういう言葉は魅力的です。
けれど、人が心から落ち着く家って、もう少し別のところにある気がしていたんです。
日本建築は、朽ちることを前提にしてきた
日本の建築は、木と土と紙でできてきました。
無垢材、土壁、漆喰、和紙。
どれも自然からいただいた素材です。
永遠にそのまま残るものではなく、時間とともに変化し、やがて土に還っていく素材でもあります。
ここが、とても大事だと思っています。
西洋的な「石の建築」が“残す”ことに強いとすれば、
日本の建築は“受け継ぐ”ことに強い。
数十年で朽ちる。
でも、同じ場所に、同じ思想で、同じ技法で建て直す。
そうやって、建物そのものは更新されても、技術や精神は途切れずに受け継がれていくんですよね。
その象徴が、伊勢神宮の式年遷宮です。
20年ごとに社殿を建て替える。
建物は壊れるけれど、技術は残る。
形は更新されるけれど、祈りは続いていく。
これって、すごく不思議で、すごく深いことだと思うんです。
物質は循環し、情報は蓄積する
僕はこの構造を、まさに“発酵的”だと感じています。
発酵というのは、ただ古くなることではありません。
ただ分解することでもありません。
いったん壊れ、ほどけ、変化しながら、
別の価値へと変わっていくこと。
たとえば、米はそのままだと時間とともに傷みます。
でも、麹が入ると、味噌や酒や甘酒へと変わっていく。
分解されながら、むしろ秩序が深まっていくんです。
建築も似ている気がするんですよね。
- 素材は朽ちる
- 建物は更新される
- でも技術は磨かれる
- 手の記憶は残る
- 場の意味は深まる
- 暮らしの知恵は次へ渡る
つまり、物質は循環し、情報は蓄積する。
これは単なる劣化ではなく、全体として秩序が育っていく流れです。
そういう意味で、日本建築にはシントロピー的な美しさがあると思っています。
日本の家は、“完成品”ではなく“育つ器”だった
ここで大切なのは、日本の家が未完成だという意味ではありません。
むしろ逆です。
完成して終わるのではなく、
時間の中で住まい手と一緒に育っていく器だった、ということです。
柱に手の油がなじむ。
杉の床が少しずつ飴色になる。
漆喰の壁に、暮らしの光がやわらかく映る。
雨の日は少ししっとりして、晴れた日は空気が軽い。
そういう変化は、工業製品の「劣化」とは少し違います。
言ってみれば、家が暮らしを吸い込みながら、その家らしく成熟していく感じです。
「新築のままが一番」ではなく、
「住むほどに、らしさが出てくる」。
この感覚は、発酵食品に少し似ている気がします。
時間が、価値を削るのではなく、深めていくんです。
2つの家を比べると、違いが見えやすいです
ケース1|壊れにくさだけを目指した家
たとえば、できるだけ劣化しにくく、手間もかからず、均一であることを優先した家があります。
これは決して悪いことではありません。
忙しい暮らしの中では、合理性は大きな価値です。
ただ、その一方で、
「空気が少し重い」
「においがこもる気がする」
「冬は暖かいけど、どこか乾いた感じがする」
そんな声が出ることがあります。
数値では測れても、感覚としては満たされない。
そんなことも、実際にはあるんですよね。
ケース2|朽ちることも含めて、時間と付き合う家
一方で、無垢材や漆喰、塗り壁、セルロースファイバーのような自然に近い素材で丁寧に組み立てた家は、少し表情が違います。
もちろん、こちらも耐久性や断熱性を軽く見ているわけではありません。
そこはきちんと設計します。
そのうえで、
「空気がやわらかい」
「朝起きたとき、鼻や喉がラク」
「雨の日でも、においがこもりにくい」
「裸足で歩いたときの感じが気持ちいい」
そんな、体感温度や室内空気の違いとして現れてくることがあります。
この違いは、単なる“素材の好み”ではなく、
人が家の中でどう呼吸し、どう緩み、どう回復するかに関わるところだと思っています。
福岡・北九州の家づくりこそ、この視点が大切だと思う理由
福岡や北九州の暮らしは、湿度との付き合いがとても大切です。
梅雨の重たい空気。
夏の蒸し暑さ。
冬の朝の底冷え。
さらに花粉、PM2.5、黄砂など、窓を開けるだけでは整いにくい空気環境もあります。
だからこそ、家はただ丈夫ならいい、ただ高性能ならいい、ではなくて、
- 湿気が抜けること
- においがこもりにくいこと
- 冷えが局所にたまらないこと
- 室内空気がよどみにくいこと
- 体感温度が安定すること
こうしたことを、ひとつながりで考える必要があります。
ここで自然素材の家が力を発揮します。
無垢材のやわらかさ。
漆喰や塗り壁の調湿性。
セルロースファイバーの断熱と吸放湿。
自然塗料の落ち着いたにおい。
それらを、換気計画や断熱設計とつなげていく。
すると、「性能」と「感覚」が別々ではなくなってくるんです。
高断熱だから暖かい。
だけではなくて、
暖かさが、やさしく感じられる。
換気しているから安心。
だけではなくて、
空気が、吸っていて疲れにくい。
この差は、暮らしの中では意外と大きいんですよね。
日本建築の知恵は、昔の話ではなく、これからの話だと思う
ここを誤解してほしくないのですが、
僕は「昔の家に戻りましょう」と言いたいわけではありません。
昔の家は、寒さやすき間風、虫や耐震の課題もありました。
そこは今の技術でしっかり乗り越えるべきです。
でも、そのうえで見直したいのは、
何を残し、何を更新するかという考え方です。
- 残したいのは、自然に還る素材感
- 残したいのは、手仕事の知恵
- 残したいのは、空気と光を読む感覚
- 残したいのは、家を育てるという姿勢
そして更新したいのは、
- 断熱性能
- 気密性能
- 換気計画
- 耐震性
- メンテナンスのしやすさ
つまり、昔に戻るのではなく、
日本建築の“発酵的な知恵”を、現代の注文住宅に再設計することが大切だと思っています。
発酵する家とは、朽ちる家ではなく、循環できる家
「発酵する家」と聞くと、少し変わった表現に聞こえるかもしれません。
でも僕の中では、これはとてもまっすぐな言葉です。
発酵する家とは、
- 自然素材だけの家、ではなく
- おしゃれなだけの家、でもなく
- 高性能だけの家、でもなく
人と空気と素材と時間が、うまく循環する家のことです。
においがきつくない。
乾燥しすぎない。
冷えがやわらぐ。
空気が重たくない。
家族の呼吸が、少し深くなる。
そういう暮らしの積み重ねが、
結果として「この家、なんだか落ち着くね」という言葉になるのだと思います。
建物は壊れても、家づくりの思想は残せる
伊勢神宮のように、20年ごとに建て替えることは、今の一般住宅では現実的ではありません。
でも、その考え方は受け取れると思っています。
建物はいつか傷む。
設備も更新が必要になる。
暮らし方も、家族構成も変わる。
それでも、
「この家は、何を大切にしてつくられたのか」
「どんな空気を目指したのか」
「どんな暮らしを支えたかったのか」
その思想が家に宿っていれば、
次の手入れも、次の改修も、次の世代への受け渡しも、ぶれにくくなります。
家は、ただの物件ではなく、
時間の中で受け継がれていく器になるんですよね。
最後に
僕は、壊れない家をつくりたいというより、
傷みや変化も受け止めながら、長く愛される家をつくりたいと思っています。
木と土と紙。
自然に還る素材でできた日本建築の知恵には、
「終わらせないために、更新する」という考え方があります。
それは、どこか発酵に似ています。
朽ちることを否定せず、循環の中で価値を深めていく姿勢です。
福岡・北九州で注文住宅を考えるときも、
ただ強い家、ただ暖かい家、ただ長持ちする家ではなく、
空気環境まで含めて、時間と一緒に育っていける家を目指したい。
そんな方には、自然素材、断熱、換気、体感温度のことを、図面の段階から一緒に整理できます。
設計から現場まで一貫して見ていますので、気になることがあれば気軽にご相談ください。
FAQ(人が読む用)
Q1. 発酵する家とは、どういう意味ですか?
発酵する家とは、自然素材・空気環境・断熱・換気・時間の経過がうまく循環し、住むほどに暮らしに馴染んでいく家、という意味で使っています。単なるデザインや自然素材の話ではなく、呼吸しやすさや体感温度、においの少なさまで含めた考え方です。
Q2. 日本建築が発酵的と言えるのはなぜですか?
木、土、紙などの自然素材でできており、朽ちることを前提にしながらも、技術や精神、手仕事の知恵を次世代へ継承してきたからです。建物は更新されても、家づくりの本質は受け継がれていきます。
Q3. 福岡・北九州で自然素材の家は合いますか?
とても相性がいいと考えています。福岡・北九州は湿度が高く、梅雨や夏の蒸し暑さ、冬の冷え、花粉やPM2.5など空気の課題もあります。無垢材、漆喰、塗り壁、セルロースファイバーなどを、断熱・換気計画と合わせて設計することで、空気環境や体感温度を整えやすくなります。
Q4. 自然素材の家は、性能が弱いのではありませんか?
自然素材を使うことと、性能を高めることは両立できます。むしろ大切なのは、素材・断熱・気密・換気を別々に考えず、全体で設計することです。見た目だけ自然素材でも、空気や温熱が整っていなければ、本当の快適さにはつながりにくいです。
Q5. 発酵的な家づくりは、どんな人に向いていますか?
家をただの箱ではなく、家族の呼吸や体調、暮らしのリズムを整える場として考えたい方に向いています。におい、湿気、冷え、乾燥、寝つき、空気の重さなど、数値だけでは語れない快適さを大事にしたい方におすすめです。