ケースで見る:無垢床は「本当に長持ちした」のか?
ここからは、実際に無垢の床と暮らしているお客様のケースを、少しだけご紹介します。
図面やスペックだけでは伝わりにくい「時間の中での表情の変化」が、イメージしやすくなると思います。

ケース①:小さなお子さん2人のご家庭の場合
最初のお打ち合わせで、ご夫婦が口をそろえておっしゃっていたのが、
「子どもがオモチャを投げるし、食べこぼしも多いから、
無垢の杉なんて、あっという間にボロボロになりませんか?」
というご不安でした。
たしかに、やわらかい杉の床は、
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おもちゃの落下
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イスの出し入れ
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食べこぼし
こうした日常の動きで、どうしても傷やシミが増えやすい素材です。
実際に暮らしてみてどうなったか?
お引き渡しから数年後、点検で伺ったときのダイニング周りは──
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子どものイスの下には小さなへこみがたくさん
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テーブルまわりには、よく見るとシミや色ムラ
パッと見ても「生活している家の床だなあ」という印象でした。
ただ、そのご家庭では、2〜3年に一度のペースで、
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床を軽くサンディング(表面をうすく削る)
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その後にオイルを塗り直す
というメンテナンスを続けておられました。
10年ほど経った頃に伺ったとき、床は決して「新品のピカピカ」ではありません。
でも、木目の表情に深みが増し、ところどころの傷や色ムラも含めて、
「家族の歴史が刻まれた、いい味の床だなあ」
という雰囲気をまとっていました。
ご夫婦の印象的なひと言
そのとき、ご夫婦がこんなことをおっしゃいました。
「この傷を見ると、あの頃の子どもの顔が浮かぶんです。
合板だったら、きっと『汚くなったなぁ』で終わってた気がします。」
同じ「キズ」でも、それをどう感じるかは素材によって変わります。
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合板:塗膜の上のキズ → “劣化”として目につきやすい
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無垢:木そのものについたキズ → “思い出”として語れる
無垢床は、そういう 「時間を一緒に蓄えていける床」 なんだと、改めて感じさせられたケースでした。
ケース②:築30年、合板から無垢へ張り替えたご家庭
もう一つは、「合板から無垢へ」のリフォーム例です。
もともとの床は、ごく一般的な合板フローリングでした。
築20年を過ぎたあたりから、
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日当たりの良いところだけテカテカと光る
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歩くと、ところどころ沈み込むようなフワつき
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隙間や、パキッと鳴る床鳴り
こういった状態が目立ち始めたそうです。
30年目の決断:「最後は無垢で暮らしたい」
築30年のリフォームを機に、
「最後の張り替えは、憧れていた無垢の床にしたい」
という思いから、オーク材の無垢フローリングに全面張り替えをされました。
それから約15年。
点検で伺うと、
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細かな傷や日焼けはたしかにある
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でも全体として、とても落ち着いた良い表情
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「また張り替えなきゃ」という感じはまったくしない
状態でした。
お手入れとしては、
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年に1回ワックス掛け
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たまに気になるところだけ部分補修
この程度で十分とのこと。
「捨てる床」から「一緒に年を重ねる床」へ
奥様のひと言が、とても印象的でした。
「前の床は、“限界まで使って捨てる”感じでしたが、
今は、“これからも一緒に年を重ねていける”感じがするんです。」
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合板の床:
→ 十分頑張ってくれたけれど、どうしても「耐用年数で終わる床」という印象。 -
無垢の床:
→ 多少の傷や日焼けが増えても、「もう少し頑張ろうか」と声をかけたくなる床。
同じ「床」でも、関係性が変わる。
これが、無垢材ならではの魅力だと思います。
ランニングコストで見ると、無垢はむしろ「コスパが良い」
無垢床の話になると、必ず出てくるのが「コスト」の話です。
初期費用だけを見ると…
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無垢床:一般的に、合板より価格が高くなることが多い
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合板床:同じグレード帯なら、無垢より安価になりやすい
ここだけを比べると、
「やっぱり合板かな…」
となるのは、ある意味自然なことかもしれません。
でも、30年・40年スパンで見ると…?
少し視点を変えて、「張り替えまで含めたコスト」で見てみます。
合板フローリングの場合
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15〜25年くらいで、
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表面のテカリやムラ
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塗膜のはがれ
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床の浮きやきしみ
が気になり始めることが多い
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限界を超えると、大掛かりな張り替え工事が必要になりやすい
無垢フローリングの場合
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日々のお手入れ:
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掃除機+固く絞った雑巾でOK
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ランニングコスト:
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定期的なワックスやオイル塗布(DIYでも可能)
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必要に応じて、一度サンディング+再仕上げ
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床そのものの張り替えは、ずっと先送りできる
つまり、
「張り替え工事がほとんど発生しない」
という点まで含めて考えると、
長く住むほど、無垢床はコスパの良い選択になりやすいのです。
無垢床を長持ちさせる、暮らしのちいさなコツ
「長持ちする素材」としての実力を、暮らしの中でちゃんと発揮してもらうために。
難しいことではなく、ほんの小さな習慣で十分です。
日々の暮らしでできること
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こぼしたら、すぐ拭く
→ これだけで、シミと反りのリスクは大きく減ります。 -
椅子の脚にフェルトを貼っておく
→ キズ防止+床鳴り軽減にも効果的です。 -
玄関マット・キッチンマットを活用する
→ 砂や水が直接床に乗る量を減らすだけで、寿命がぐっと伸びます。 -
1〜数年に1回、オイルやワックスで“ご機嫌伺い”
→ 乾燥しやすい場所(窓際など)を中心に、薄く塗ってあげるだけでも違います。 -
気になるシミやキズは、紙やすり+オイルでトントン
→ 完璧に消すというより、「少し馴染ませる」イメージで。
いちばん大事なのは「心の持ち方」
そして、技術的なコツ以上に大事なのが、
「完璧なまっさら床」を目指しすぎないこと。
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この小さなキズは、子どもが初めて立ち上がったときについたもの
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このシミは、家族みんなでカレーをこぼして大笑いした日
そんなふうに、
床も含めて「暮らしのアルバム」
だと思えるようになると、
無垢材は一気に “長持ちする良い床” に変わっていきます。
まとめ
― 無垢の床は「手のかかる優等生」。だからこそ長持ちする。
最後に、ポイントをあらためて整理すると、
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無垢の床は、たしかに傷やシミは付きやすい
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でも、削って・塗って・手をかければ、再生できる
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だからこそ、数十年単位で付き合える“長距離ランナー”の床材
と言えます。
もし、
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合板フローリング:ラクで優秀な短距離ランナー
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無垢フローリング:手をかけるほど強くなる長距離ランナー
と例えるなら、
無垢の床は「一緒に年を重ねたい」と思えるパートナーに近い存在です。
家を「何年で元を取るか」ではなく、
「どんな時間を、どれだけ長く、この家で過ごしたいか」
その視点で床材を選んでみると、
無垢の床が持っている“本当の長持ち力” が、きっとはっきり見えてくるはずです。
Q1. 無垢床は初期費用が高いのに、本当にコスパが良いのですか?
A. 初期費用だけを見ると、無垢床は合板より高くなることが多いです。ただし、合板は15〜25年ほどで張り替えが視野に入りやすいのに対し、無垢床は削って再仕上げすることで何十年と使い続けることができます。張り替え工事の回数が少なくて済む分、長期のランニングコストで見ると、無垢床の方がコスパが良くなるケースも少なくありません。
Q2. 小さな子どもがいると、無垢床はすぐボロボロになりませんか?
A. おもちゃや食べこぼしで、たしかに小さな傷やシミは増えます。しかし表面だけの浅い傷や汚れであれば、紙やすりで軽く整えてオイルを塗り直すことで、ある程度目立たなくできます。2〜3年に一度の簡単なメンテナンスを続けることで、「ボロボロ」ではなく「味わいのある床」に育っていきます。
Q3. 合板から無垢床に張り替えるメリットは何ですか?
A. 合板フローリングは、表面の塗膜が傷んだり、浮きやきしみが出てくると「限界まで使って張り替える」という選択になりがちです。無垢床に張り替えると、その後は傷や日焼けも含めて再仕上げしながら長く付き合うことができます。「消耗品としての床」から「一緒に年を重ねていく床」へと、住まいとの関係性が変わる点が大きなメリットです。
Q4. 無垢床を長持ちさせるために、日常で気をつけるポイントは?
A. こぼしたらすぐ拭く、椅子の脚にフェルトを貼る、玄関やキッチンにマットを敷いて砂や水を減らす、といったちょっとした習慣で寿命は大きく変わります。1〜数年に一度のワックスやオイル塗布、気になる部分だけの紙やすり+オイル補修を続けることで、無垢床は数十年単位で使える「長距離ランナー」になります。