無垢の床は本当に長持ちするのか? ―「キズだらけ=寿命が短い」という誤解から
こんにちは、福岡のビオハウジング 健康オタクの住宅設計士、竹森です。
今日はよくご相談をいただくテーマ、
「無垢の床って、すぐ傷だらけになって長持ちしないんじゃないですか?」
という疑問について、
「いえいえ、むしろ“長持ちするからこそコスパのいい床なんですよ」
というお話をしてみます。
無垢の床と合板フローリング、まずは何が違う?

無垢フローリングの魅力(左:素足での心地よさ、右上:傷が歴史となる経年変化)と、長持ちする構造的な理由(右下:合板との断面比較)をまとめたイメージ。
無垢フローリングとは
無垢フローリングは、1本の木をそのまま削り出した板です。
厚みは15〜30mmくらいが一般的で、木目や節、色ムラもすべてその木の「個性」です。
表面仕上げには、
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オイル仕上げ
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蜜蝋ワックス
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自然塗料
といった、木の呼吸を妨げにくい塗料が使われることが多くなります。
イメージとしては、
「木そのものの上に、素足で暮らす」 感覚に近い床材です。
合板フローリングとは
一方、合板フローリングは、構造がまったく違います。
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中身:何層かのベニヤ板(=合板)を貼り合わせた板
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表面:数mm以下の薄い木(突板)か、木目柄のプリントシート
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仕上げ:全体を硬いウレタン塗装やUV塗装でコーティング
見た目は“木っぽい”のですが、
中身はサンドイッチ状の構造になっていて、「本物の木の板」ではないという点が無垢材との大きな違いです。
足ざわり・温もりの違い
体で感じる違いも、無垢材と合板ではかなりはっきりしています。
無垢フローリングの場合
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足ざわりがやわらかく、少しふんわりした感覚
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熱を奪われにくく、冬でもヒヤッとしにくい
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木がわずかに呼吸しているので、調湿性があり
素足で歩くと、どこか“生き物っぽさ”を感じる
合板フローリングの場合
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表面がツルッとしていて、とても均一
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空気の温度をそのまま感じやすく、冬場は冷たく感じやすい
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どの部屋でもほぼ同じ足ざわりで、「素材の個性」はあまり感じにくい
ここまでは「よく聞く違い」ですが、
今日いちばんお伝えしたいのは、ここからの “寿命”と“長持ち”の話 です。
「無垢は傷つきやすい=寿命が短い」は、じつは誤解
傷は“ダメージ”ではなく、“履歴”になりやすい
無垢の床は、たしかに傷は付きやすいです。
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子どもがおもちゃを落としてついた小さなへこみ
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椅子の脚がこすれてできるスジ
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ペットの爪あと …などなど
細かいキズやへこみは、暮らしとともにどんどん増えていきます。
ただ、ここが大事なポイントで、
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杉やパインのようなやわらかい木は、へこみが時間とともに少し戻ることもある
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表面だけの浅い傷なら、紙やすりで軽く整え、オイルを塗ればかなり目立たなくなる
という特性があります。
つまり、
「傷が増える=寿命が削れる」
というよりも、
「傷が増える=家族の歴史が刻まれていく」
という性格を持った素材なんですね。
子どもの頃についた傷を、大人になってから見て思い出話ができる──そんな“履歴”を受け止めてくれる床でもあります。
合板は「あるラインを超えると急に古びて見える」
合板フローリングにも、もちろん良いところがあります。
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表面の塗膜がとても硬く、細かな傷に強い
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水や汚れが落ちても、サッと拭けば染み込みにくい
という、大きなメリットがあります。
ただし、
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一度ガリッと削れると、白い線がくっきり残る
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年数が経つと、塗膜がくすみ、テカリやムラが出てくる
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水をこぼしてそのままにすると、内部の合板がふくれて戻らない
といったことも起こります。
その結果、ある境目を超えたあたりから、
一気に“くたびれて見える・張り替えたい”状態に近づきやすいのが、合板フローリングの特徴でもあります。
無垢床が「長持ちする素材」と言える3つの理由
ではなぜ、そんな傷がつきやすい無垢材が、
「長持ちする床材」と言えるのでしょうか。
大きく分けると、次の3つの理由があります。
① 厚みがあるから「削って再生できる」
無垢フローリング最大の強みは、なんといっても厚みです。
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厚さは15〜30mmほど
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傷やシミが増えても、表面を1〜2mmほど削ることができる
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そのうえでオイルやワックスを塗り直すと、かなり“新品”に近い表情を取り戻せる
たとえば、20年使った床でも、
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全体をサンディング(削る)
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仕上げをやり直す
という工事を一度入れれば、
さらに10年、20年と延命できる力を持っています。
「古くなったら交換する床」ではなく、
「疲れてきたら磨き直して、また一緒に歩んでいく床」 として使えるのが、無垢の大きな魅力です。
② 「張り替える」のではなく「育て続けられる」
合板床の場合、寿命を左右するのは表面の薄い突板やシートです。
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表面が大きく傷む
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塗膜が剥がれてしまう
と、「削って再生」という選択肢はほとんどなく、
どうしても大規模な張り替えになってしまいます。
一方、無垢床は、
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日々の小さな傷 → 紙やすり+オイルで部分補修
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床全体のくすみ → サンディング+再仕上げでリフレッシュ
というように、「手をかけることで延命できる」素材です。
感覚としては、
「消耗品として取り替える床」ではなく、
「手入れしながら長く付き合い続ける床」
と言ったほうがしっくり来るかもしれません。
③ 設計・施工・暮らし方しだいで、数十年選手になる
もちろん、「無垢であれば何でも長持ち」というわけではありません。
長持ちさせるための条件も大事です。
設計・材料選びのポイント
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しっかり乾燥させた材(含水率をきちんと管理した材)を選ぶ
→ 乾燥不良だと、反りや割れが出やすくなります。 -
暮らし方に合った樹種選び
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杉・パイン
→ やわらかくて足ざわりが抜群。キズは付きやすいが、そのぶん味として楽しみやすい -
ナラ・オーク
→ 硬くて傷に強く、店舗などでもよく使われる定番
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場所によって床材を変える
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LDKや寝室:無垢材
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水回りや玄関:タイルや耐水性の高い床材
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家じゅうすべてを無垢にする必要はなく、
「ここは無垢で育てていきたい」という場所に集中させるのも、一つの賢いやり方です。
施工の精度も寿命に直結します
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下地になる合板がしっかり平らであること
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床暖房を使う場合の温度条件や施工方法
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木が伸び縮みするための“逃げ”寸法(周囲のクリアランス)をきちんと取ること
こうした施工の精度が高いほど、
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反り
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すきま
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床鳴り
といったトラブルはぐっと減り、
結果的に**「長く、気持ちよく使える床」**になります。
ここまでが、
「無垢の床は、傷つきやすいけれど、実はとても長持ちする素材ですよ」
というお話の前半戦です。
この続きとして、
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ランニングコスト(張り替えまで含めたトータルコスト)
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毎日のメンテナンスのコツ
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実際の暮らしの中でのエピソード
などを加えていくと、
「無垢の床って、思っていたより安心して選べるんだな」と感じていただけると思います。
Q1. 無垢の床と合板フローリングは、どこが一番違うのですか?
無垢の床は、1本の木をそのまま削り出した板で、厚みがあり再生しやすいのが特徴です。一方、合板フローリングはベニヤ板を重ねた合板の上に薄い木や木目シートを貼り、硬い塗装でコーティングしたもの。見た目は似ていても、「中身」と「長持ちの仕方」が大きく違います。
Q2. 無垢の床は傷がつきやすいと聞きますが、やめた方がいいでしょうか?
たしかに無垢の床は傷が付きやすいですが、それがすぐ寿命につながるわけではありません。表面だけの浅い傷であれば、紙やすりで軽く整えてオイルを塗ることで、かなり目立たなくなります。傷を「ダメージ」ではなく「家族の履歴」として捉えられる方には、とても相性の良い素材です。
Q3. 無垢の床は本当に長持ちしますか?
適切な乾燥と施工がされていれば、厚みのある無垢材は、表面を1〜2mm削って仕上げをやり直すことで、何十年と使い続けることができます。合板のように「表面が傷んだら張り替え」ではなく、「削って再生しながら使い続けられる」という点が、長持ちする理由です。
Q4. 無垢床を長持ちさせるために大事なポイントは?
設計段階での材料選びと、施工精度、そして暮らし方の3つです。含水率管理された材を選び、樹種を暮らし方に合わせて選定し、反りやすきまを抑える施工を行うこと。暮らしの中では、こぼしたらすぐ拭く、椅子の脚にフェルトを貼るなどの小さな工夫で、無垢床の寿命はぐっと伸びます。