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TOP性能ブログ【空気の基準②】化学物質を減らすだけでは足りない?(後編)

【空気の基準②】化学物質を減らすだけでは足りない?(後編)

ビオハウジングが「発酵する家」にこだわる理由(後編)

こんにちは。福岡のビオハウジング、

健康オタクの住宅設計士・竹森哲也です。

前編では、

  • 建築基準法や厚労省の指針値という「空気の基準」を守っていても、

  • 「数字の上ではきれいなのに、何かが足りない」

  • 「生きていない空気」のような違和感がある

というところまで、お話ししました。

後編ではその続きとして、

  • 化学物質を「ゼロ」にする発想の限界

  • ビオハウジングが考える「発酵する家」という基準

  • 実際の設計・暮らし方で何をしているのか

を、もう少し踏み込んで書いてみます。


4.化学物質を「ゼロ」にする発想の限界

前編の最後に浮かび上がってきた問いは、

「数字の“きれいさ”と、身体が感じる“いごこち”は別物では?」

というものでした。

そこから、「そもそも化学物質って何だろう?」という原点に戻って考え直しました。

4-1.“毒=ゼロが正しい”わけではない

世の中的には、

  • 化学物質は悪いものだから、できるだけゼロに

  • 自然素材はいいものだから、多ければ多いほど良い

という、白か黒かの議論になりがちです。

ただ、よく考えてみると、

  • 自然界の食べ物や植物にも、毒性を持つ成分はたくさんある

  • 人間の身体には、解毒・代謝・修復の仕組みが備わっている

  • 微生物は、さまざまな物質を分解・変換しながら循環させている

つまり、本来大事なのは

「毒があるかないか」ではなく、

どのくらいの量なら、身体と微生物が消化できるか

という視点のはずです。

食べ物と同じで、「量」と「組み合わせ」と「時間」が大事。

空気の中に含まれるものも、それと同じではないか?と思うようになりました。


4-2.“きれいすぎる”ことが生むアンバランス

もうひとつ、気になっているのが「過剰な除菌・消毒」です。

  • 強力な除菌スプレー

  • 合成洗剤・柔軟剤

  • 香りでごまかす消臭剤

こういったものを日々たくさん使うことで、

  • いわゆる“悪い菌”だけでなく、

    本来そこにいてよい微生物たちもまとめて一掃してしまう

  • 子どもの身体が、ちょっとした環境の変化にも敏感になりやすくなる

……という、アンバランスも生まれてきます。

家の中の空気も同じで、

「化学物質を徹底的に排除して、

微生物も徹底的に抑え込んだ“無菌に近い箱”」

が、本当に 人のいのちにとって自然な環境なのか?

という疑問が消えませんでした。


5.ビオハウジングが考える「発酵する家」の基準

そこでビオハウジングでは、

もう少し違う基準を持つことにしました。

それが、

「発酵する家」= 人と微生物が、無理なく共生できる空気

という考え方です。

5-1.キーワードは「ゼロではなく、消化できる量」

発酵する家では、

  • 化学物質を完全にゼロにすることではなく

  • 人の身体と微生物がちゃんと消化・循環できる範囲に抑えること

を目指しています。

イメージとしては、

  • ちょっとした刺激があるからこそ、

    免疫や代謝が、ほどよく働き続ける

  • 微生物が、素材の表面やホコリの中で

    静かに循環しながら、空気を整えてくれる

そんな、「無菌」でも「毒まみれ」でもない中庸のゾーンです。


5-2.数字+感覚+微生物、三つの“ものさし”で空気を見る

発酵する家では、空気を評価するときに

  1. 数字

    • 温度・湿度

    • CO₂ 濃度

    • 化学物質(必要に応じて測定)

  2. 感覚

    • 深く息を吸いたくなるか

    • 長くいても、妙な疲れが出ないか

    • 子どもの表情や、眠りの質がどう変わるか

  3. 微生物の世界

    • カビが過剰になっていないか

    • 「何もいない」ではなく、穏やかな生態系が成り立っていそうか

という、三つの“ものさし”で見ていきます。

「検査結果は完璧だけれど、みんなが落ち着かない家」

「数値はギリギリでも、家族全員がよく眠れて元気な家」

このどちらか一方に偏るのではなく、

数字・感覚・微生物のバランスが、できるだけ同じ方向を向いている状態

を、発酵する家の「良い空気」として大事にしています。


6.発酵する家の実装ポイント3つ

では、実際の設計や工事・暮らし方の中で

具体的に何をしているのか。

大きく3つに分けて書いてみます。


6-1.構造・断熱・防湿・通気で「薬に頼らない」

まずは、家の「骨格」と「皮膚」の部分です。

  • 結露しにくい断熱・防湿構成にする

    → カビが生えにくい「温度・湿度・構造」を先に整える

  • 壁・屋根・床の中に、きちんとした通気層を設ける

    → こもる空気を減らし、防腐剤・防カビ剤に頼り切らない

  • 防蟻処理も、「家全体に満遍なく」ではなく

    必要な位置と量を見極める(地盤・周辺環境を見ながら)

「薬で無理やり押さえ込む」のではなく、

「そもそもトラブルが起きにくい構造」にする

これが、発酵する家のベースです。


6-2.素材と仕上げ:完全に封じ込めない「余白」を残す

次に、暮らしの「肌ざわり」をつくる仕上げの部分。

  • 壁や天井

    → ビニールクロス一色ではなく、

    紙・木・土・漆喰など、湿度と熱をゆるやかに受け渡す素材を使う



  • → 厚みのある無垢材や、調湿性のある仕上げを選び、

    表面をビニールで完全にラッピングしない

  • 静電気の起きにくい素材を選び、

    → 空気中のホコリや粒子が、壁・床にベタッと張り付かないようにする

表面をツルツルに封じ込めてしまうと、

  • 湿気も熱も、素材の中に入っていけない

  • 微生物の「居場所」が極端に減る

結果として、**“きれいだけど、息苦しい箱”**になりがちです。

あえて、自然素材の**「余白」**を残すことで、

  • 湿度や熱が、緩やかに行き来できる

  • 微生物が、過剰になりすぎずに静かに回っている

そんな「発酵しやすい器」としての家を目指しています。


6-3.暮らし方・日用品もセットでデザインする

そして最後に、とても大事なのが暮らし方です。

いくら家の性能や素材に気をつかっても、

  • 強い香りの柔軟剤・消臭剤

  • 刺激の強い合成洗剤

  • 常にフレグランスが焚かれている

という状態だと、

空気の質はどうしてもブレてしまいます。

ビオハウジングでは、

  • お引き渡し前の打合せで、

    洗剤や柔軟剤・消臭スプレーの選び方を一緒に考える

  • 家具やカーテンを選ぶときにも、

    素材や仕上げの話を少しだけ添える

  • 引き渡し時に「空気と暮らし方のミニ講座」を行い、

    **そのご家族に合った“無理のない工夫”**を一緒に探す

といった形で、

家と暮らしをセットでデザインするようにしています。

家は「完成品」ではなく、

住まい手と一緒に“発酵していく器”

そんなイメージを持ちながら、

日用品や習慣の話も、ていねいにお伝えしています。


7.「自然素材の家」と、発酵する家の違い

よくいただく質問のひとつが、

「自然素材の家と、発酵する家は何が違うんですか?」

というものです。

7-1.一般的な「自然素材の家」

  • 無垢の床や漆喰・珪藻土など、素材選びに重心が置かれやすい

  • 「ビニールクロスよりは身体によさそう」という安心感はある

  • ただし、

    • 断熱・換気・通気との連携があまり語られない

    • 日用品や暮らし方までセットで話されることは少ない

「素材を変えること」がゴールになってしまいやすい。


7-2.ビオハウジングの「発酵する家」

発酵する家では、

  • 自然素材を、「微生物の居場所・人の感覚の器」として使う

  • 断熱・防湿・通気・換気をセットで整え、

    薬剤ではなく、構造でカビや劣化を抑える

  • 洗剤・柔軟剤・消臭剤・家具など、

    暮らしの中の“見えない化学物質”も一緒に見直す

というように、

素材+構造+暮らし+微生物

まで含めた「空気の設計」として、家づくりを考えています。


8.まとめ:法律の基準の“その先”に、自分たちの基準を持つ

前編・後編を通して、一番お伝えしたかったのは、

「法律で決められている基準」と

「自分たちが本当に大事にしたい基準」は別物だ

ということです。

  • 建築基準法のシックハウス対策は、

    「ひどい空気にはしない」ための最低ライン

  • 厚労省の室内濃度指針値は、

    「病気になりにくい空気」の目安

そこから先は、

「自分たちは、どんな空気の中で暮らしたいのか?」

という、暮らし手の価値観の領域です。

ビオハウジングの場合は、

“化学物質を除く”だけでは満足できなかった結果として、

「発酵する家=いのちのリズムが整う空気」という基準を選んだ。

というのが、正直なところです。

福岡・北九州の気候や暮らし方に合った

「発酵する家づくり」を、

これからも一つずつ丁寧に続けていけたらと思っています。


FAQ(本文用)

Q1.「発酵する家」とは、具体的にどういう家ですか?

A.発酵する家とは、化学物質をゼロにするのではなく、人の身体と微生物が無理なく消化・循環できる範囲に抑えながら、断熱・防湿・通気・換気・自然素材・暮らし方をセットで整える家です。数字としての基準だけでなく、「深く息ができるか」「家にいるとホッとするか」といった体感も大切にしています。

Q2.自然素材を使えば、すべて発酵する家になりますか?

A.自然素材はとても大事な要素ですが、それだけで発酵する家になるわけではありません。断熱や防湿、通気の計画が不十分だと、カビや結露の原因にもなりますし、暮らしの中で強い香料や洗剤を多用してしまうと、空気の質は大きく崩れてしまいます。素材+構造+暮らし方をまとめて考えることが重要です。

Q3.化学物質を完全にゼロにすることは可能ですか?

A.現代の建築で化学物質を完全にゼロにすることは、ほぼ不可能ですし、現実的でもありません。ビオハウジングでは、ゼロを目指すのではなく、「身体と微生物が消化・循環できる量」に抑えること、そして構造や素材、暮らし方を整えることで、トータルとして心地いい空気をつくることを大切にしています。

Q4.発酵する家に興味がありますが、どこから相談すればいいですか?

A.具体的な土地やプランが決まっていなくても、「空気のことを大事にした家を考えたい」という段階からご相談いただいて大丈夫です。オンライン相談やモデルハウス・OB邸の見学などを通して、発酵する家の空気感を体験していただきながら、一緒に計画を進めていければと思います。

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