【もやし屋での学び①-前編】発芽と発酵はいのちの兄弟──種麹屋さんから見えた“環境”のちから
こんにちは、福岡のビオハウジング。
健康オタクの住宅設計士、竹森哲也です。

鹿児島で偶然立ち寄った、種麹屋・川内菌本舗さん。
黒麹・白麹、本格焼酎を支えてきた「もやし屋さん」の話をうかがいながら、
私の頭の中にはずっと、こんな問いが浮かんでいました。
「発芽」と「発酵」って、どこが違って、どこが同じなんだろう?
ここで出てきたのが、「もやし」という言葉の不思議さでした。
日常で「もやし」といえば、
スーパーに並ぶ、あの“発芽した豆や野菜”を思い浮かべます。
一方で、種麹屋さんの世界でいう「もやし」は、
蒸した米の上で麹菌が伸びていく様子が、芽(もやし)のように見えることから
そう呼ばれてきたと言われています。
語源にはいくつか説があって、完全に一つには絞れませんが、
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「芽が萌え出る(萌やす)」イメージ
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米にカビが生えた状態を指す古い言葉
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菌糸が“野菜のもやし”そっくりに伸びていく姿
こうしたイメージが重なり合って、
**「種麹=もやし」「種麹屋=もやし屋」**という呼び名が、長い時間をかけて定着してきたようです。
つまり、川内菌本舗さんの「もやし」は、
発芽した野菜ではなく、発酵のスタートを切る“菌のタネ”そのもの。
その視点であらためて、
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種が目を覚ます「発芽」
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菌が働き出す「発酵」
この二つのプロセスを並べて考えてみたくなりました。
発芽とは何か──種のいのちが目を覚ます環境条件
豆や穀物の種は、一見するとただの“カチカチの粒”です。
動いているようにも見えないし、そこにいのちがあるようには感じにくいかもしれません。
けれど本当は、
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ちゃんと生きていて
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ただ深く眠っている
だけなんですよね。
そこに、
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水
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ちょうどよい温度
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酸素(空気)
がそろうと、種の中で酵素が動き始めます。
デンプンやタンパク質といった栄養が分解され、
小さな芽が殻を破って伸び出す準備を始めます。
つまり発芽とは、
「いのちのスタートボタンを押すための環境が整った状態」
と言えます。
「豆もやし」を育てる生産者さんの仕事は、
このスイッチを
「無理なく、でも確実に入れてあげる」環境づくりとも言えるでしょう。
そして、種麹屋さんの「もやし」づくりもまた、
形は違っていても、いのちのスタートラインを静かに支える仕事だと感じました。
発酵とは何か──微生物が素材を“別のいのち”に変えていく
味噌、醤油、パン、チーズ、お酒…。
私たちの食卓にある発酵食品には、たいてい
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麹菌
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乳酸菌
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酵母
といった、さまざまな微生物が関わっています。
彼らは、
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糖やデンプン、タンパク質などを分解し
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それまでになかった香りや旨味、酸味、コクを生み出し
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保存性や消化のしやすさまで変えてしまう
という、“変容のプロ”のような存在です。
おもしろいのは、
微生物たちは「人間のために発酵してあげよう」と頑張っているわけではなく、
ただ自分たちが生きて、食べて、増えているだけ
だということ。
その結果として、
私たちにとってうれしい「発酵」という現象が起きている。
発酵もまた、“いのちがいのちのまま動いている”プロセスなんですよね。
発芽と発酵の共通点──環境さえ整えば、いのちは勝手に動く
こうして並べてみると、発芽と発酵にはたくさんの共通点が見えてきます。
共通して大事な条件は、
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水分
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温度
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空気(酸素)
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時間
どちらも、これらが「ちょうどいいバランス」でそろったとき、
初めていのちが動き出します。
人間ができるのは、
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無理に引っ張り出すことでも
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力づくでコントロールすることでもなく
「環境を整え、あとはいのちに任せる」こと
だけなのだと、あらためて感じます。
発芽も、発酵も、
そして家づくりも、本質は同じなのかもしれません。
後編では、ここから一歩踏み込んで、
「麹は毒にも薬にもなる」という話と、家の空気とのつながりを見ていきたいと思います。